『指示』


好奇心、猫を殺す。そんな事はよくわかっていたんだが。


クレイニンが目覚め、ニューヘイブンからどこかへ連れて行かれてから程なく、ブリタニアにとある噂が流れた。
「何か起きる」「それに参加するには、SL派閥に入らなければならない」

シャドーロード派閥。今、ブリタニアを恐怖の渦に叩き込んでいる張本人を支持する者たちによる派閥である。「全生命体の滅殺」が目的だなんて政治的信条としては筆者から限りなく遠い位置にある派閥であるが・・・
見に行きたい。何が起きるのか、行かねばならんだろう。
イベントおっかけ人としての欲望に負け、とあるネクロマンサーがSL派閥の門を叩いた。



たのも〜。

こうして派閥闘争に身をおいたものの、正直、筆者に対人は無理である。スキル無いPスキルない根性無いの3無主義なのだ。派閥をちゃんとやっている方々にとっては、このような興味本位参加者は邪魔以外のなにものでもあるまいとは思いつつ、SL派閥に入った者に配られる真っ黒なローブを着込んだ。

そんなある日。
突如、耳元に囁く声が聞こえてきた。
「我らへ全てをささげるものたちよ」
それはノスフェンター、卑劣のシャドーロードの声であった。
「時は来た。我らの拠点に集まるのだ」

・・・そうか。シャドーロードの言葉に従わなければならないのか。

SLの拠点、フェルッカのユーゲート近辺にある砦に向かう。
しかし・・・いいのだろうか?ブリタニアを愛するブリタニアンとして、サブ垢のキャラではあるがブリタニアに害するシャドーロードの手先となってしまっていいのだろうか?

な〜んて考える間もなく



砦に待ち受けていたミナックス派閥の方にさっくり殺される。
瞬殺。

どうやら最近大和の地ではミナックス派閥の活動が活発らしい。続々と人を呼び集めていく様子が見て取れる。
そうこうしているうちに、SL派閥の者たちが続々と集まり始める。



全員黒ローブならぬ灰色ローブだがな!
こうして、その場にいる者の大半がイベント目的に急遽SL派閥入りした、にわか派閥人だということが判明したのであった。ほんとうにすまん。



ほどなく、砦にある魔方陣の中央にゲートがでる。そのゲートにはSL派閥の者しか入れないようだ。
そこにはノスフェンターの手先となったメリッサが待っていた。



メリッサはSL派閥の大半が幽霊状態で現れた事にあきれながらも、任務の説明を始めた。




「クレイニンの抹殺よ。」

・・・ああ、やはり・・・。
内心、判ってはいたのだ。クレイニンが目覚め、そしてどこかに移送されたこのタイミングでSL派閥が動くとしたら、それ以外には目的は無いだろう。
しかし・・・



本当に、殺してしまうのか?
クレイニンを?
あのクレイニンを?



メリッサには、あの清楚で大人しかったムーングロウでの面影などまったく見えない。



フォージから黒いダガーを受け取る。これによってクレイニンを守っているパラディンを殺せ、と言うことらしい。
メリッサによって出されたゲートによって着いた先は、フェルッカのトリンシック。
ついこの間はいったパッチによって街に流れる音楽が変更されている。物悲しい音楽が筆者の焦燥感をあおる。



SL派閥の人間として来たからには、見ているだけ、というわけにはいかない。
本当に・・・クレイニンに手をかけてしまうのか?
この自分が?
クレイニンを好きだと言って止まないのに?

戸惑いながら、パラディン詰め所に向かうと、二階にクレイニンがいた!
いいのか!?本当に、クレイニンを・・・このままでは、自らの手で殺してしまうことに・・・

ん?



なんかクレイニンの様子、おかしくないかい?



く、黒い!?



あんた何しゃべってんねん!



しかもバリアー!?

ちょ、これ、本当にクレイニンか!?
どっかの黒ウイスプでも連れてきたんじゃねぇ?
ぐはっ、魔法痛ぇっ、うらああっ、EVじゃあっ、EBじゃあっ



硬ってぇえええ、うは、線上に魔法の炎っ、あつっ、あつっ

・・・この時点で既に、クレイニンに手をかけていいのかなんて悩んでいた事などぶっとんでしまっている。
でえいっ、とりあえず攻撃じゃ攻撃ぃっ、目の前の敵を倒すぜごらぁっ


と、半ば麻痺した感覚の中、クレイニンのHPを半分ほど削った頃、背後から突如悲鳴が。はっ、先ほどSL砦で張っていたミナックス派閥の人たちが襲ってきたのか!



応戦はするものの、大半が野次馬の寄せ集めSL派閥に対し、ミナックス派閥はさすが、統制が取れていた。続々と殺されていくSL派閥の人々。



なんというか、その場にいた数少ない対人仕様なSL派閥の方々には、役立たずで本当に申し訳ないなぁと思いつつ。
あらかたSL派閥の者を殺害し終えると、ミナックス派閥の人達はクレイニンに攻撃を仕掛け始めた。ミナックス派閥は今は無きロードブリティッシュに敵対し、フェルッカの掌握を完全にしようとする立場。クレイニンに攻撃を仕掛けるのも自然である(ロールプレイ的に。これがTBじゃなくて本当によかった・・・)
どう見てもウイスプ語である言語を話しながらミナックス派閥の人たちと戦うクレイニン。そしてそれを幽霊姿で見守るSL派閥。シュールすぎるだろうこれは。

クレイニンに自ら手を下さなくてよくなったことに、微妙な安堵感を覚える筆者。でもそれ以上に、無力感にさいなまれる。
果たしてこれがクレイニンと言い切れるかどうかはともかくとして、クレイニンに手をかけてしまったこと。そして結局何もできなかったことについて・・・ちょっと自分自身、中途半端すぎないか!?
あくまでレポートを書くためだけについてきたんだ、と割り切るには、筆者はちょっとばかり血が熱すぎるのであった。傍観者じゃいられねぇ!いちブリタニアンとして存在しなければならなかったんだ!そのためには・・・自分の心を偽った行動なんて取るべきじゃなかったんだ!(ごごごごごご(血がふつふつと煮えたぎる音))

まぁ、燃え盛っていても、幽霊としてぼんやりと立ち尽くしている現状ではどうしようもないわけで。

クレイニンが瀕死状態になったところでメリッサが姿をあらわす。



メリッサは嫣然と笑うと、あざけるようにクレイニンに言った
「これから私の感謝の気持ちをあなたに贈るわ」
クレイニンはウイスプ語をわめくだけで、なんらメリッサに反応を示さない。



「死ね!」
メリッサによって倒されるクレイニン。メリッサの高笑いが響く。
そしてメリッサの放つ魔法が、クレイニンの死体を木っ端微塵に打ち砕いた。



どうやらこの爆破で大量の瓦礫が出来たらしい。
それはともかく、一仕事を終えたメリッサは建物から出ると、幽霊に囲まれながらつぶやいた。



へっ、悪かったなっ



・・・意外に豪気で大雑把だな。



あとは好きにしなさい、と軽く解散命令を出しメリッサが去ると、幽霊達は一人、また一人と姿を消していった。筆者も、苦い思いとある一つの決意を胸に、トリンシックを後にしたのであった。



速攻脱退。
いや〜、対人をしている方々の研鑽って本当にすごいと思うよ。そして、実際に楽しそうでもある。でも。
自分には無理っす。根性無しと言われて本望です。

その後、数日も経たないうちに、ブリタニア城内にクレイニンの慰霊碑が建ったという知らせが。



やけに仕事が速いな、カスカ。
仕事の早さがクレイニンを悼む気持ちと比例するとは限らない。喜び勇んで建立しやがったなこの野郎。



果たしてあの黒光りしていたクレイニンは本当にクレイニンなのだろうか?
実は影武者だった、とか・・・非常にありそうだ。
あんな、ウイスプ語しか話さない、オヤジギャグの一つも飛ばさないクレイニンなんてクレイニンじゃない!だってここには、彼の帽子しかないじゃないか。
別垢でもクレイニンに刃を向けた自分が言えたもんじゃないが、どうか。クレイニン、生きていてください。

・・・敵方に改造されて、ラスボスとして出てこられても困るんすけど。

筆者に鬱屈する気持ちを与えたこのクレイニン殺害事件は 慰霊碑を建てられたことで無理やり終結させられた感が漂う。そんな中、誰も気がつかない中でひそかに事態は進展していた。評議会の手を逃れて隠れ潜んでいたデクスター、スーテック、タイムロードの三人が逃亡先の小部屋からいつの間にか姿を消していたのだ。



更に逃げたのか?それとも「敵」に捕まったのか。

ともあれ。この「クレイニンの死」によって、カスカ以前の評議会のメンバーの姿が消えたこととなる。



偉大な魔法使いの死。この先、ブリタニアを待つ運命やいかに!


大和以外のシャードも見に行ったのだが、とあるシャードにて。

誰にも相手されず一人で帰ったメリッサの背中に、思わず声を殺して笑ってしまった幽霊であった。
いや〜、ストーリーを気にかけている人じゃなかったらこんなもんだよね、普通。