『宝珠を守る者』


モンデインの遺産

「ルビーの宝珠を持っていたのはエルフであると仮定してみたり」

「ど〜見ても小物」だの「ヘタレ」だの「カスか」だの「ボケカス」だの呼ばわりされまくっているが、カスカが今回のストーリーを考える上で最重要人物の一人であることは間違いない。
しかし、彼の来歴はあまり明かされていない。ただ現時点、我々に判明しているのは、彼の出自がハートウッドであり、初めてブリタニアの司法に携わったエルフであった、ということである。

だが、なぜこの重要なキャストがエルフである必要性があったのであろうか。政権を掌握し、一時的にせよ王座にまで登りつめた男。おそらくはシャドーロードに見込まれ、操り人形と化していた男。なぜ、その役割をエルフが担うこととなったのか。


かつて豊穣であったユーの大地。腐敗の呪文に侵されたこの地を救う為に研究し続けていたアドラナスは、ミーア族の古い詩篇を見つけた。

宝珠の守人 古の人

断たれし糸を 繰りしは守人
裂かれし布を 継ぎしは守人

癒しの技に長ける人々
育ての才に優る人々

断たれし糸を紡ぐ為
裂かれし布を織る為に

己が知恵を頼みとし
己が力を注ぎ込み

糸を繰りしその後は
布を継ぎしその後は

己が心を癒やす為
己が体を治す為

大いなる樹と大地とを
二つに分かち離れて住まん

宝珠の守人 古の人

いずこにあらんや 古の
いずこにおわすや 守人ぞ


この伝説の「古の人」ならばユーの大地を救うことが出来る。ブリタニア評議会は調査隊を派遣してこの「古の人」を探し出した。このようにして、ブリタニアはハートウッドを見出し、エルフは伝説の中から蘇り、ブリタニアの地に立った。

この詩によって抱かれる「古の人」のイメージはどのようなものであろうか。ハートウッドに住まうエルフ達の超越した、ある意味傲慢な姿は結構近い、かもしれない。
しかし、大地に降り立ったエルフ達はあっという間に俗化してしまう。山賊となって、通りかかる旅人に襲い掛かるエルフの姿には詩に見られるような癒しの力などはカケラも感じられない。これを読まれる方の中にもエルフとして生まれてきた方、はたまた自らの中にエルフの血が受け継がれている事を感じ、エルフへと転生された方もいらっしゃるであろうが、あの壊滅的被害を受けていたユーを再生する力を自分自身が持っていると感じている方はおられるまい。
ユーを再生させたのは、果たしてエルフの力であろうか。

ここで忘れてはならないのが、エルフが「宝珠の守人」だという事である。この「宝珠」とは一体何なのか。

ブリタニアの超古代、世界がまだソーサリアと呼ばれた頃。太陽の力を引き出すルビーの宝珠というものがあった。これを管理していた父親を殺害し、宝珠を奪ったのがあのモンデイン。彼はルビーの宝珠を邪悪な力によって不死の宝珠へと変えた。
大いなる力を持っていたルビーの宝珠を闇へと捻じ曲げることによって、更に苛烈な力を持たせたのだ。
この不死の宝珠の中にソーサリアを閉じ込め、世界を支配したモンデインだったがその後、ロードブリティッシュによって召喚された異邦人によって倒されてしまう。
その際、不死の宝珠は砕け、その破片一つ一つに世界が出来てしまったわけなのだが・・・

それ以来、それぞれの切片の歴史において重要な局面で登場してきたのは、この不死の宝珠のカケラであった。割れてしまったとは言え、元が不死の宝珠。そのカケラでさえもとてつもないパワーをもっている。
ミナックスと宝珠のカケラを巡って戦いを繰り広げたり、ブリティッシュ陛下が危険なこのカケラを永遠に失わせるために、それまで見つかっていたカケラを手にエセリアル空間へと帰らぬ旅に出かけた事は記憶に新しい。
世界をも支配する力を手にする事が出来る不死の宝珠。
しかしながら、ここでエルフが守っている「宝珠」は不死の宝珠ではないのではないか、という仮説を立ててみる。実はモンデインの父親が持っていたルビーの宝珠、それと同じものまたはそれに類するものが他にあり、それをエルフが持っていたのではないか、と。闇に染まった不死の宝珠ではなく、太陽の力を引き出すルビーの宝珠。この力を使う事によってエルフは腐敗したユーを豊穣の大地へと癒したのではないだろうか。


あの、シャドーロードとの最終決戦。ブリタニアの冒険者達はドーンのみちびきにより、シャドーロードのアジトへと突入した。激しいラグの、もとい、戦いの末、倒される三柱。冒険者達がその先で見たものは、いままさに赤い宝珠が闇に侵され、不死の宝珠が作り出されんとしていたところだったのだ。
不死の宝珠がシャドーロードの手によって作られたならば、あっという間に世界は闇に包まれてしまうことであろう。危ういところでブリタニアは救われたのだ。

心ならずも事件の渦中に巻き込まれ、多くの出来事の目撃者となった魔法使いデクスターは後に述懐している。「彼ら(シャドーロード)は大いなる力を払い、あるルビーを見つけた。それは私達のあの美しき太陽の力に対応するものである。」

では、一体シャドーロードはこの不死の宝珠を作り上げる元となるルビーの宝珠をどこで手に入れたのだろうか。


宝珠を守っているとされるエルフ。カスカというエルフの出現。そしてルビーの宝珠を手に入れ、闇に染めようとしていたシャドーロード。このラインから先ほどの仮定が成立した。

仮定が正しいとすれば、エルフであるカスカをシャドーロードが見込んだのは、エルフが守るという宝珠を手に入れるため。世界を闇に染めるために不死の宝珠を手に入れようとしたシャドーロードの計画上、カスカが重要な位置を占めていたことは想像に難くない。

シャドーロードに見込まれ、その運命を大きく狂わせられてしまったカスカ。全てが終わった後、まるでオマケのように息絶えていたカスカの存在は、「過去に哀れな男がいた」程度にしか思い出されないであろう。シャドーロードの手先となり、ブリタニアを混乱に陥れた男には、墓さえも作られなかった。
彼がシャドーロードの下僕となる前はどのような人物だったのか、彼が何を思い、何を望んでいたのかさえ今となってはつかめない。すべては歴史の流れに飲み込まれていく。


このページ内の文章はあくまでかにかくに管理人の現時点での私論であり、事実と異なる可能性があります。今後更なる文献が見つかるなどした場合、少しずつ訂正していくものとします。
第一稿 2010.01.07